再び、妄想管理人くいんです(笑)
「コールド・スリープ(後編)」はっじまるよー
(前編はコチラ





分自身の感覚が
まったく頼りにならないことに驚いていた。



丸1日が経っていたというのに
空腹感もなく髭すら伸びていないのだ。

もしも、時計も何もない密閉された空間だったなら
この出来事に気付くことなどできなかっただろう。

私は眠っていたのではない。

コールド・スリープ装置は一瞬のうちに
細胞の活動をひとつ残らず一時停止させていたのだ、、、
もちろん、夢をみられるはずもなかった。






その後、私は何回かコ−ルドスリープを試した。

一時は装置に魅了されていた私だったが、
その後、1日がムダに過ぎ去ることへのジレンマを感じてからは
装置を使用しなくなっていた。
なにしろ、人生の折り返し地点を過ぎたのはもうだいぶ前のことなのだ。
1日1日をもっと大事に生きなくては、、、 


だが、その考えも孫との約束により大きく変わることになる。







「わたしが結婚するときは写真撮ってね♪」

よほど花嫁のウエディングドレス姿が印象的だったのだろう。
休日に遊びにきた私の息子の一人娘、ユリ(6歳)が私に言った。

息子の話しによると
友人の結婚式に娘を連れていってからというもの
早くも結婚すると言いだしているのだそうだ。


「わかった。おじいちゃんがユリの花嫁姿を撮ってあげよう。」

可愛い顔をくしゃくしゃにして喜んだユリの笑顔は
小さな太陽のようだった。

ユリの結婚式か、、、
20年先だとすると私は80歳。30年先なら90歳。
残念だが実際のところ約束は守れそうにもない。



そのときにふと思った。

寿命が尽きる直前ではなく、

いま、元気なうちにコールド・スリープをしたら、、、?

本来、あらゆる生物の細胞は常に休むことなく代謝を繰り返している。

人は夢をみている時でさえ老化しているのだ。

しかし、
コールド・スリープは老化を一時停止させておくことができる。
24時間のコールド・スリープではたいした変化にはならなくても
20年のコールド・スリープだったなら、
20年分の寿命を貯金したことになるのだ。



私はこの思いつきを「命の貯金」と名付けた。

けれど、生きる目標をみつけたとたんに恐さが増してきた。
可能なのだろうか、不可能じゃないのか?

そんなに長期間のコールド・スリープなどしたことはない。
頭の中で何度も議論した結果、私が出した答えは

「1週間に1日だけ目覚めること。」

この方法ならユリの成長してゆく姿を見守ることができる。
とはいえ本当のところ、何年にもわたるコールド・スリープは
恐くて選択することができなかった。

この方法を信じるしかない。






翌日から新しい生活がはじまった。
週の6日間がコールド・スリープ状態という奇妙な生活だ。



いままでどおり、実験のことは誰にも知らせなかった。
納得してもらえるような事ではない。

息子には日曜日以外は外出していると伝えておいた。

近隣の住民たちも不審には思わないだろう。
一人のひきこもりがちな老人がいるだけのことだ。


1年365日のうち、目覚めている日数は約50日。
普通の人々の7年間が私にとっては1年間という計算になる。


毎週、日曜日の朝に目覚め、近くのコンビニエンスストアで朝食を買い、たまっていた1週間ぶんのニュースを読んだ。
あるときは遊びにきた孫たちと遊び、またあるときは
趣味の模型作りに没頭した。

なによりも驚かされたことは四季の移り変りのはやさだ。
今まで気付いていなかった美しさがそこにはあった。


早送りをしたように昨日までつぼみだった桜は一晩で満開になり、
昨日まいたばかりの種からは新芽が顔をのぞかせていた。








「命の貯金」を続けてから3年の月日が流れた —



27歳になったユリは幼き日の面影を残しながらも、
大人の女性へと成長していた。

ユリの花嫁姿を撮るという夢が叶ったのだ。

私には3年でも実際には21年の月日が経ったのだ。
この時、私は81歳。年齢だけはすっかり老人になったが、
実質63歳の私がそこにはいた。

私の年齢を知った人々が驚いていたのも無理はない。
コールド・スリープ生活はあきらかに人々との差をみせていた。





だが、人生は願ったとおりにいかない。

自分が病に侵されていることを知ったのはそのすぐ後のことだ。

胸の苦しさを覚えて医者にみてもらったところ、
進行が早くて完治は不可能だと医者にはっきり言われてしまった。

なんてことだ、、、
私の身体全体に癌が広がっているなんて、、、

皮肉なことに医療技術が進歩し、
人の残り寿命がわかる時代が到来していたが
いまだに癌の治療薬は存在していなかった。




医者が言うには私に残された時間は200時間余り。
残り8日間しかない。



ときに医者は死神のようにみえる。




病院で貴重な時間を失ってしまった。
81歳にはみえない私の身体に興味をもった医者のせいで
検査入院が数日間にも及んだのだ。

ようやく自宅に戻ることを許された私は、
早速、息子たちを呼び、いままで隠してきた
コールド・スリープのことを初めからすべて話した。

信じがたい父親の話にはじめは言葉をなくしていたが
装置をみせると静かに耳を傾けてくれた。


それはとても楽しい時間だった。
私の話に驚き、ときに笑いもあった。
こんなにも長く家族と話をしたのはいつ以来のことだっただろうか。





そして最後に
2100年12月31日までコールド・スリープすることを告げた。



私が再び目覚めたとき、ここにいるみんなはもういない。
それでも、残された時間を使い22世紀を迎える瞬間に立ち会いたい。


本当に最後の最後までわがままな人生だ。



目覚めたときに見える風景はどんな未来だろう。
最後のコールド・スリープは皆を帰したあと一人で行った。



「ピィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」



作動開始を知らせる電子音が鳴り響く。











次の瞬間、、、


目を閉じたままでもわかる、、、 光だ。まばゆい光につつまれていた。

ここはどこなんだ?  私は死んだのだろうか。






「父さん、お久しぶりです。」


その声に目を開けると息子の姿があった。
たくさんの人達の中にユリの姿もみえる。

なぜ?ここは天国なのか? 

説明されるまでわけがわからなかったが、
それは思いがけないことだった。


あれから時が過ぎ、西暦2030年に
コールド・スリープ装置が一般向けに発売されていたのだ。

まさか、息子をはじめユリもその孫までもが
コールド・スリープによって今日の日のために
集まってくれていたとは、、、





「おじいちゃん、おめでとうっ〜♪!!!」



100年後の未来で皆に祝福してもらえるとは思いもしなかった。

高層ビルへと生まれかわった部屋の大きな窓には
ミレニアムを祝う鮮やかな花火が繰り返し反射し
室内を鮮やかに照らしだしている。



二度目のミレニアムに待っていたものは
最高にうれしい贈り物だった。




カウントダウン

もうすぐ22世紀がはじまる —










〜エピローグ〜
これが私の人生

さぁ、そろそろ本当の眠りにつくとしよう
ずいぶん長いこと待たせてしまった

おまえに話したいことがたくさんあるんだ...



前編に戻る






  
アクセスランキング